遠きにありて思ふもの


 化合物の種類は千差万別で、その性質も多岐に亘っています。安定なものから不安定なものまで。安全なものから危険なものまで。中には濃度が高くなった時や乾燥した時に、危険性が発現するものもあります。

 ある学生が反応を行なっていた。何事もなく順調に進み、エバポレータを用いて反応溶液を濃縮する段階になった。溶媒が徐々に留去され、もう少しで全てが終わるという段階になった。その時、NMRチューブのキャップが実験台の上から床に落ちた。それを拾おうとして、しゃがんだ瞬間、頭の上でお菓子の缶が倒れたような音がした。学生が立ち上がってみると、エバポレータにはナス型フラスコはなく、ジョイントだけがくるくると回っていた。学生はその様子を見て、一歩間違えたら危なかったと胸を撫で下ろした。
 しかし不思議なのは、そのような危機的状況であったにも拘らず、研究室の他の学生が全く反応していないことである。しばらくすると、隣の研究室の先生が飛び込んできて、「大丈夫ですか!」と呼びかけた。同じ部屋にいると、音が爆発音に聞こえなかったが、離れた部屋にいる先生には爆発音に聞こえていたようである。その後、ようやく研究室の面々が学生の実験台のところに集まってきたのであった。

化合物を濃縮乾固すると、爆発性を示すこともあります。扱う化合物については、危険性を十分に調べておくようにするべきですね。