傷跡


 先生が学生に実験の手順を説明していても、先生の思い描いている風景と、学生の思い描いているそれとは、違っていることがよくあります。

 ある学生が手元にある化合物に金属が含まれているかどうかを調べたいと思い、先生に相談をした。先生は「一番簡単なんは燃やしてアッシュ(灰分)が残るかどうかやな。スパテラの上に載せて焼いてみ。バーナーみたいなんで炙ったら、その勢いで試料が飛んでしまうから、穏やかにやるようにな。」しかし、それを聞いていた学生の思い描いていた実験風景は違っていた。陶器製のシャーレに試料を置き、上からバーナーで30秒ほどかけて加熱した。その結果、燃えかすが残っていることを確認し、金属を含んでいることを明らかにした。学生の実験は、そこで気分良く終わっているはずであった。
 片付けようと思って、シャーレを動かすと、作業台のバーナーで炙り続けられた箇所が焦げて、表面が熔け、盛り上がっていた。復旧のしようのない程度であり、学生は落ち込んでしまった。それを見た先生は、作業台の傷と、学生の心の傷を塞ぐために、焦げ後に絆創膏を貼ったのであった。

誰にでも初めて行なう実験操作というものがあります。そのような時は、実験を始める前に、自分のやろうとしている実験操作が正しいのかどうかを、先生に確認するようにした方がいいですね。