決壊


 最近のドラフトチャンバー(略してドラフト)はスクラバ式のものがほとんどで、吸い上げた空気を洗浄液に通過(吸い込んだ空気の流量と水の重さが釣り合っており、1、2センチの洗浄液層ができています)させてから、外部へ排出するというものです。

 ある学生がドラフトで反応を仕込んでいたところ、吸気口の辺りから水がちょろちょろと流れ出てきた。通常、水が出ないところから出てくるというのは絶対におかしい。学生はすぐに先生に来てもらったが、先生にも理由が分からなかった。その瞬間、吸気口からバケツをひっくり返したような水が流れ出てきた。そこに居た人達は「なんや、なんや」とパニックである。先生が慌ててドラフトの吸気スイッチとスクラバのスイッチを切った。すると今度は足元から、同じくらいの水が溢れ出てきた。
 訳が分からないまま、業者の人を呼び、チェックしてもらったところ、1枚の使い捨て手袋の仕業であるということが判明した。それ以降、その研究室では下側の吸気口を閉鎖して使うようになったのであった。

この一連の出来事を解説します。ドラフトの吸気能力は高いので、軽いものは吸い込んでしまいます。誰かが使った手袋をドラフトに置きっ放していたのが、吸い込まれたのだと思います。手袋は上部にある洗浄槽に行き、そこで漂っているうちに排水口を塞いでしまった。それでも洗浄液はドラフトの下のタンクからポンプで汲み上げられて供給されるので、水の重さに耐えきれなくなって吸気口から水が出てきました。その時、慌ててスイッチを切ったために、洗浄液を持ち上げていた空気がなくなり、一気に下のタンクまで落ちてきて溢れ出たのです。