無用の用


 一見役に立たないようなものでも、実際には重要な役割を果たしていることがあります。

 ある学生は4回生の後輩と2人でベンゾイルクロリドを使う反応を行なっていた。精製した分が残り少なくなったが、他の用事が入っていたため、後輩に「ちょっと蒸留しといてくれへんかな」と頼んだ。後輩も自分が使う試薬でもあるので、「いいですよ」と快諾して、試薬棚から瓶を持って来て、以前に精製したベンゾイルクロリドの上に足して減圧蒸留を行なった。
 ところが、その日以降、反応の収率が大幅に低下した。しかし、全く進行しない訳でもなかった。条件検討をあれこれしてもなかなか収率が上がってこない。そこで、収率の低下の原因となった副生成物を単離して解析を行なったところ、ベンジルクロリドであることがわかった。その時、4回生が蒸留したのは、Benzoyl Chlorideではなく、Benzyl Chlorideであることが判明したのであった。

蒸留する時には、沸点を測るために温度計が挿してありますが、それは玉栓替わりに挿してあるのではなく、目的の化合物がきれいな状態で留出しているのかどうかを確認するものです。しっかり見るようにしましょうね。