擬態


 当たり前のことが当たり前でなくなりますと、誰しもパニックに陥ってしまうものです。

 ある学生が反応を仕込もうとして準備をしていたが、今回はいつもと気合いの入れ方が違っていた。この反応をどうしても成功させたい学生は、引き出しの中から、とっておきのステンレス製の回転子を取り出た。反応がうまく進行してくれることを願いながら、容器に入れ、溶媒も加え終わった。試薬を加える段階になり、マグネティックスタ-ラ-のスイッチを入れた。ところが、回るはずの回転子が回らない。電源のコ-ドを確認したり、スタ-ラ-の位置を変えてみたりしたが、微動だにしない。スタ-ラ-に耳を近づけると、中でモーターが回っている音はするが、回ってほしい回転子は一向に回らず撹拌をすることができない。
 訳がわからなくなった学生は先生を呼んで尋ねてみた。先生はその回転子を手に取るとおもむろにしゃがみ込んだ。そして実験台の下の袋戸を開けて側面に開いている小さな穴にそれを差し込み、「棚受けの金具を反応容器に入れんように」と言って立ち去ったのであった。

形が似ていると思わず間違えてしまいますよね。取り違えないようにお気をつけ下さい。