猪突猛進


 研究室に配属されてしばらく経ちますと、クロロホルムが水より重たいことくらいは、誰もが知っています。しかし、「ジクロロメタンは?」と尋ねると、「・・・」となる場合もよくあります。

 ある学生が原料合成をしていた。それは、誰もが簡単にできてしまい、容易には失敗しない反応であった。反応終了後、ジクロロメタンで抽出した時、有機層と思われる上の層を取り、硫酸ナトリウムで乾燥をした。先輩からは「粉が舞い上がる程度入れるんやで」と教わっていたので、少しずつ入れてみたが、粉は舞い上がるどころか、量が減ってしまうように見えた。学生は意地になって硫酸ナトリウムを入れ続けて、一瓶を空っぽにしてしまった。次に乾燥剤をろ別しようとしたが、これがまた非常に遅いし、ろ紙がふにゅふにゃになってくるしで、学生はかなりいらいらしたが、我慢強く待った。そうして得られたろ液を濃縮しようと思ったが、溶媒がなかなか沸騰しない。沸点が40℃であるにもかかわらず。手も浸けられないくらいに、水浴の温度を高くした頃にようやく濃縮をすることができた。ナス型フラスコの中には大量の白い粉末が残されていた。
 その時点になって、ようやく学生は自分が大きな勘違いをしているのではないかと思い始めた。そして、ある仮説に行き当たった。水を入れたサンプル瓶にジクロロメタンを1滴垂らしてみたところ、ジクロロメタンの滴は水の底に沈み、自分の仮説が正しいことを確認するに至った。しかし、あとの祭り。水層と思っていた有機層はとっくの昔に水道の流しに消えてしまっていた。慌てた学生は同じ実験をすぐに仕込み直した。そして、先生には「ちょっと原因がわからないんですが、反応が進行していなかったようでしたので、今、やり直しています。」と、あたかも考えながら実験に取り組んでいる学生を演じていたのであった。

この時、4回生だった学生も、今は化学で御飯を食べています。現在失敗続きで将来が心配な4回生もきっと大丈夫ですよ。しかし、どうでもええけど、はよ気付けよ!