スポイトの涙


 スポイトは液体を吸い上げるためのものですが、その際、スポイトの頭(乳首とも言われますが)が必要になります。そう、逆向きにすれば、涙のような形をしているゴム製品のことです。

 ある学生がスポイトで硝酸を吸い上げていた。その時、手に入れた力が少し強かったのか、酸の飛沫がゴムの中にまで入ってしまった。学生は慌てて、水洗いをしたものの、乾燥機に入れて乾かすかどうかを迷った。ゴムが熔けてくっつくかもしれないし、焦げて臭いにおいが出るかもしれないと心配したのである。その学生は風乾する道を選んだ。要はそのまま放っておいて自然乾燥するという道である。
 それからしばらくして、他の学生が混合物から生成物を単離していた。かなり純度も高く、データとして残せるスペクトルを測定しようと意気込んでいた。NMRチューブにスポイトを使って重クロロホルムを加えたところ、チューブ内で相分離が起こった。「何事や!」と思って見ると、スポイトの頭から水が入ったことが分かった。気合を入れていただけにそのショックは大きく、大粒の涙が溢れ出てきたのであった。  

失敗はするものです。ただ、他の人に迷惑をかけるような失敗は、かけた方もかけられた方も非常に後味の悪いものになってしまいます。自然乾燥するならするで、他の人が触らないような場所に置いておくべきだったのですが、それを怠ったがために迷惑をかけてしまったのですね。気をつけたいものですね。