レジェンド


 有機化学の実験で最も難しい操作の1つに絡むクロマトグラフィーがあります。充填剤の詰め方から展開溶媒の選択、極性を上げていくタイミング、後処理の仕方などなど、成功させるためには多くのポイントがあり、「習うより慣れろ」と言わざるを得なくなります。

 ある学生が反応混合物のNMRチャートを見てにんまりしていた。目的とする化合物が得られているっぽいからである。あとは少しの副生成物を取り除くことにより生成物の純度を上げ、各種スペクトルデータを集めるだけである。しかし、TLCを展開してみると副生成物とのスポットに大きな差はなく分離が困難であることが予想された。しかもその学生はろ過のようなカラムは経験したことがあるけれど、本格的な分離は未経験であった。
 学生は「TLCでも少しは離れてるんやから」と、できるだけ慎重にゆっくりと展開していく方法を選んだ。実際にカラムクロマトグラフィーを始めた学生は、フラクションも多くの溶出液を溜めずに細かく分けるようにした。その結果、実験台の上には受器に使っている瓶の数が順調に増えていった。1日では終わらず、その作業は3日間続いた。そしてフラクションの数は150を超えた。その記録は未だ破られていない。TLCのプレートも数多く使ってチェックし、エバポレータを専領しながら濃縮をするという前代未聞のカラムを行なった。しかし、時間をかけ過ぎたために、生成物はカラム中で全て分解したことを確認したのみであった。  

どんな実験でも適した量というものがあります。それを大きく乱したところで、大きな成果が得られるとは限りませんね。