過ぎたるは・・・


 NMRは有機化学の研究においてなくてはならないものですが、マグネットは心臓部であり、中を破損することは元より汚すことも厳禁です。従って、普段からサンプルチューブの汚れを丁寧に拭き取ってからマグネットに挿入する必要があります。

 ある学生が反応を行なっていた。後処理も終えて、あとは生成物の確認をするだけである。反応をしている時から手応えを感じていた学生は、ワクワクしながらNMRを測定した。しかし、得られたスペクトルには、目的の化合物のシグナルに加えてトリプレットとカルテットのエトキシ基に特徴的なシグナルが観察された。どこにもエトキシ基を有する試薬を使っていないのに、そのようなシグナルが現れたことに学生は戸惑った。しばらく考えていた学生は、1つの結論に至った。そこで、同じサンプルを用いて、再度NMRの測定をしたところ、そのシグナルは予想通り消えていた。
 この学生は丁寧に実験をするように心がけていた。もちろん、サンプルをマグネットに挿入する際も、エタノールを染み込ませた布で丁寧すぎるくらい拭き取っていた。しかし、エタノールは他の有機溶媒に比べて揮発性が低いためにチューブの表面に残っており、チューブ内のサンプルととともに測定されていたのであった。 

実験は丁寧にすることが基本ですが、丁寧にすればするほど良いというものでもありませんね。
 「過ぎたるは猶及ばざるが如し」 by 孔子。