情け


 再結晶という操作は、成功しますと綺麗な結晶が得られますので達成感のある操作です。そんな時は各種スペクトルデータを集める際も楽しい気分で行なうことができます。

 ある学生が再結晶で結晶を取った。X線結晶構造解析ができるほどの綺麗さに満足感を味わっていた。普段はだるくてやる気が起こらない融点測定も全く苦にならなかった。融点を測定したところ、130度くらいで融解した。その時、学生は普段から先生に「もう一度測って分解点かどうかを確認しておくように」と言われていることを思い出した。融解した試料を冷やして固化させた後、再度融点測定を行なったところ、125度という値が得られた。新しい試料を使ってもう一度測定しても同様の結果が得られた。この5度というなんとも微妙な差を見て悩んだ学生は先生に相談した。先生から返ってきた答えは「結晶をすりつぶしてみ」であった。半信半疑の学生が、言われた通りに結晶をすりつぶして融点測定したところ、125度で融解したのであった。

苦労して出した綺麗な結晶を見ますと、すり潰すのが忍びないという気持ちはよく分かります。しかし、融点測定器との接触面積が少ないために熱の伝導が遅くなりがちです。そこは情けをかけずに、すり潰して正確な融点を測定するようにしましょうね。