足跡


 同じ実験出会っても用いる器具の大きさが異なるだけで、撹拌効率や冷却効率、空気との接触面積などが異なりますので、同じように反応が進行しないということが多々あります。工業スケールともなれば尚更であるということもよく耳にします。

 ある学生が加熱実験を行なおうとしていた。ネジ口試験管を用いて封菅加熱をするのであるが、実験スケールを考えて小さな試験管を用いた。その反応では高沸点の溶媒を用いていたので、かなり高温で加熱を行なった。実験を始めてしばらく見ていたが、問題がなさそうであったので、少しの間、実験室から離れた。
 ところが実験室に戻ってくると、様子は一変していた。実験装置や下の床が紫色に着色しているのである。それは明らかに試験管内の反応溶液の色であった。小さな試験管を使っていたために、高温に熱しられた溶媒やその蒸気がネジ口の蓋裏のパッキンを縮ませ、試験管内の反応溶液があたりに吹き出したのであった。掃除をしたものの、染み込んだ色は消えず足跡のように残ったのであった。

同じ実験であっても大きな試験管を使っていればパッキンが侵されなかったでしょうから、こういう悲劇は避けられたのでしょうね。歴史のある研究室の床を見ますと、先輩達が残したこのような足跡を見つけることができるかもしれませんね。