あせと涙の物語


 化合物の命名法は有機化学における言語です。そのように講義でいくら言っても、なかなか覚えようとしない学生が多いのも事実です。しかし、実際に研究室に入って実験を始めますと、似たような名前の試薬も多く間違えることも多くあります。また、間違えるとその影響も大きいので気をつけなければなりません。

 ある学生が空になったアセトンの洗瓶を補充しようとしていた。しかし、ガロン瓶も残り少なっており、洗瓶を満たせるほどは残っていなかった。そこで、学生はガロン瓶を手に持って溶媒倉庫に汲みに行った。溶媒の入った一斗缶を開けてポンプを差し込み調子よくガロン瓶に汲み出していた。その時、ふと目に入った缶のラベルの文字が少し長いように感じた。ようく見ると「Aceton」まではよかったものの、その続きに「itrile」という文字が続いていた。「わっ、アセトンにアセトニトリルを混ぜてもた」と思ったが、後の祭り。
 先生のところに報告に行くと、先生は「それは仕方ないな」と言い、続けて「洗浄用にでもして使ったらええわ」と言おうとする前に、学生からは「なので、廃液溜めに棄てました」の一言。学生が去った後に先生は「アセトニトリルは高いのに〜」と涙したのであった。

試薬でも溶媒でも入れる前、棄てる前には、しっかりと確認する癖をつけましょうね。場合によっては大きな事故になることもありますので。