慎重かつ大胆に


 滴下漏斗という器具があります。これはコックの開き具合を調整しながら、少しずつ反応系に試薬を加えるものであり、一気に加えることによる副反応や発熱を抑制する目的で使われます。

 ある学生が原料合成をしていた。通常の反応に比べて大きなスケールの反応である。学生にとって初めての実験であったので、先生に手順を教えてもらった。「発熱反応やから試薬を滴下漏斗で滴下して、全部滴下し終わったら120度に加熱すんねん。そうしたら、反応容器の中に固体の生成物がわんさか出てくるさかい」という説明を聞いて、学生は理解した(つもりであった)。
 実際に実験を始めると、反応容器の中はグツグツと煮立った状態になってしまい、学生も「これはさすがにやばい!」と感じて、先生を大声で呼んだ。先生が反応を行なっているドラフトチャンバーの前に来ると、そこにはコックが全開になった滴下漏斗が刺さった反応容器があり、中では今にも吹き出しそうなほど激しく反応している情景が目に飛び込んできた。先生はすぐに学生に氷を持って来させて、反応容器を冷却した結果、なんとか鎮静化することができた。反応系の中には固体の生成物が生成しており、本来するはずであった加熱がもはや必要ないことは、誰の目にも明らかであった。そこからが説教タイムである。「滴下しろと言うたやろ。コック全開で入れてたら、滴下漏斗やなくてただの漏斗や。もっと頭使うて実験せえよ! などなどなど」の厳しい言葉を聞きながら、学生はひたすら反省していたのであった。

発熱反応の場合、反応が進行すればするほど熱が発生して、その熱によってさらに反応が加速されるということが起こります。反応が暴走してしまいますと、もはや誰にも止めることができませんので、適度な温度を保ちながら冷却をすることが必要になります。実験は慎重に行なわなければなりませんね。