慎重かつ大胆に2


 実験は慎重にやらなければならないことは言うまでもありません。しかし、度を過ぎても良いことはありません。

 ある学生が原料合成をしていた。前回は滴下漏斗から一気に試薬を加えてしまい、反応系が暴走しかけて非常に恐ろしい思いをしたので、今回はそのリベンジである。学生は前回の反省を踏まえて、滴下漏斗から非常にゆっくりゆっくりと滴下を行なった。その効果もあり、反応系は発熱することもなく、無事に全ての試薬の滴下を終えた。しかし、時間をかけ過ぎたために加熱する時間がなくなってしまった。学生は「明日の朝に加熱しよっ」と思い、帰宅した。
 翌朝、加熱をしようと思って、ドラフトに行くとそこには昨夜とは全く異なった状態が目に飛び込んできた。反応容器は固体で埋め尽くされており、明らかに夜中の間に反応が進行していた。慌てて先生のところに報告に行くと、先生は「この前みたいに一気に加えたんちゃうか」と言うので、「ゆっくり過ぎるくらい時間をかけて滴下しましたよ」と答えた。すると先生は「ゆっくり過ぎたんやな。」と言うた後、「そばにおらんで良かったな」とポツリ。学生は訳が分からないまま、背筋が寒くなったのであった。

この反応は発熱反応なので、滴下が速いと発熱し過ぎて暴走してしまいますが、反応によって生じる熱で反応が進行している面もあります。今回は慎重に滴下をしたために発熱が起こらず、反応が進行しなかったと思われます。しかし、反応が開始するとすでに全量試薬を滴下し終えていますので、一気に加えたのと同じ状態になり、激しく反応が進行したものと思われます。やはり実験は「慎重かつ大胆に」行なわなければなりませんね。