期待過剰


 反応系を加熱する際は、溶媒の入ったナス型フラスコに玉入り冷却管を取り付けて、油浴を使って加熱するのが一般的です。しかし、この場合、溶媒の沸点以上に加熱されることはありません。それ以上の温度で反応を行ないたい時は、ネジ口試験管やオートクレーブなどを用いて密閉系で加熱する必要があります。

 ある学生が高温で反応を行なおうとしていた。ネジ口試験管を用いた封管加熱をするにしても、少量とはいえ200 ℃以上の加熱するのは流石にこわい。そこで、その辺りの沸点の極性溶媒はないかと探したところ、沸点210 ℃のホルムアミドを見つけた。ドラフトの中でセッティングし、加熱を始めてからドラフトの扉を閉めた。
 しばらくデータ整理をしてから実験室に戻ると、ドラフトの風景が完全に変わっていた。封管が破裂して、その勢いで油浴のシリコーンオイルが飛び散り、ドラフトの天井から滴り落ちるという飛散、いや悲惨な状況である。他の学生にも手伝ってもらいながら後片付けを済ませたが、「ドラフトの扉を閉めていなかったら・・・」と想像しただけで背筋が寒くなった。翌日、メーカーが提供しているホルムアミドのデータシートを見たところ、「沸点 210 ℃(分解)」と書いてあり、分解の文字を見逃していたことに気づいたのであった。

今回の場合、溶媒が熱分解して気体が発生したために、試験管内の圧力がかなり高くなってしまったものと思われます。実験をする前に試薬の性質はきっちりと調べておかなければなりませんし、実験する際は他の人にトバッチリが行かないように、十分に気をつけるべきですね。