修飾活動


 4回生になりますと、卒業研究が始まり、実験に慣れなければなりません。しかし、就職希望の学生は、それと並行して就職活動もしなければならず、多忙を極めます。そのような学生は腰を落ち着けて実験することも、なかなか難しいものがあります。

 ある学生が原料合成をしていた。文献の方法に従って、パラジウム触媒によるカップリング反応を行なった。反応溶液を濃縮して、NMRを測定したところ、目的生成物が高収率で得られていることを確認した。スペクトルを見ると、ほとんど純品に近かったが、ほんの少し不純物が含まれていた。カラムによる精製も簡単そうであったが、翌日から就職活動がしばらく続くので、それが終わってから続きをすることにした。
 企業の説明会などに参加しているうちに、3週間ほどが過ぎた。ようやく一段落した学生は、反応混合物のカラム処理を行なった。簡単そうに思えたカラム処理は意外に手こずり、目的とする生成物ではなく、異なったスペクトルを示す化合物しか得ることができない。カラムにかけていない反応混合物がまだ少し残っていたので、学生はNMRをもう一度測定してみた。すると、ほとんど目的生成物であったはずが、手元にあるチャートには全く見られず、複雑なシグナルが林立していたのであった。

化合物は必ずしも安定であるとは限りません。長期間放置している間に、分解やさらに反応が進行してしまうこともあります。この学生の場合は、触媒を除去しないまま3週間も放置していたので、生成物がさらに修飾されたのかと思われます。反応の後処理はすぐに行なうべきですね。