逆手


 研究室では機器類のメンテナンスも重要な仕事になります。これを怠りますと、ある日突然、機器類が使えなくなり、実験がストップしてしまいますので。

 ある学生が真空ポンプのオイル交換をしようとしていた。そのポンプは少し古いタイプで、本体の底に取り付けられているネジを緩めて、開いた口から汚れたオイルを取り出し、上部から新しいオイルを加えるというものであった。学生はポンプの下にお菓子の空き缶を敷き、ポンプの上から手を伸ばして、スパナを使いながらネジを回そうとした。左向きに力を加えたが、なかなか固くてネジが緩む気配が全く感じられなかった。そこで、学生は大きな体を活かして、渾身の力でスパナを回した。その瞬間、スパナに感じていた大きな抵抗が呆気ないほど消えた。しかし、ポンプからは1滴もオイルが出てこない。
 学生が恐る恐るポンプの下を覗くと、頭を失ったネジがそこにあった。その時になって初めて学生は、正面から見たら左回しのネジが反対から見ると右回しにしなければならないことに気づいた。しかし、もはや取っ掛かりのないネジを開けることもできないので、業者に頼んで開けてもらうことになった。修理代が新品を買う時の半分くらいの値段であり、先生に怒られたのはいうまでもない。

水道の蛇口でもそうですが、逆手で回そうとすると、勘違いして閉める方向に回してしまうことがあります。そんな時は無理をせず、頭を落ち着かせてから行動するべきですね。