弘法も筆の誤り


 初心者や初級者では数多くの失敗をしますが、慣れてきますと失敗は少なくなります。しかし、熟練した人でも時には失敗をすることがあります。

 ある学生が臭い試薬を使用していた。当然のことながら、ドラフトチャンバーの中で実験を行ない、前の扉も閉めてにおいが漏れでてこないようにしていた。にも拘らず、においが研究室の中に充満し始め、周りからブーイングの嵐を浴びていた。先生はその様子を見て「ドラフトの調子が悪いんちゃうか。いっぺん調べてみ。」と言った。その言葉を受けて、普段は許されることのないタバコに火をつけて、ドラフトの前に近づけたところ、煙はドラフトに吸い込まれることなく、実験室に漂っていった。
 そこで、施設担当の事務の人に来てもらい、屋上のモーターの調子を見てもらった。しばらくして降りてきた事務の人が「あれでは吸いませんわ。配線が逆になってて、モーターが逆回転してましたわ。」と報告した。それを聞いた研究室の学生達の会話。
「原因が分かって良かった。これで臭い思いをせんで済むわ。」
「それはそうと、誰か屋上に上がってモーターの配線をいじったか?」
「いいや、誰も触ってへんと思うで。あっ、そう言えば3ヶ月ほど前に業者の人が修理に来てくれたから、その時ちゃうか。」
「・・・・」
「ということは3ヶ月もドラフトが吸ってないことに誰も気づかんかったんかあ!!」

本来、こうした類の失敗は小さな頃に経験してるはずなのですが、実体験不足の学生が多い今日ではその頻度が多くなっています。「液体が浮く」という不思議な現象に囚われて、下の口から溶媒が流れ出すことに頭が回らなかった不思議な学生のお話でした。