隙あり!


 どんな分野でも簡単な作業もあれば難しい作業もあります。意外と簡単な作業をしている時の方がミスをすることがあります。「これくらい大丈夫」と思って油断してしまうからでしょうか。

 ある学生が酸クロリドを蒸留しようとしていた。沸点も60度前後と低く、単蒸留すれば済むだけである。ただ、空気中の水分で加水分解して生成した塩化水素を予め除去しておく必要がある。そこで、学生はフラスコに炭酸ナトリウムを入れ、その上に酸クロリドを滴下漏斗を用いて少しずつ加えた。予想通り酸クロリドに含まれている塩化水素は炭酸ナトリウムに捕捉されて、二酸化炭素を吐き出していた。全ての量の滴下が終わったので、アルゴン置換した蒸留装置を滴下漏斗と付け替えて、後は加熱して蒸留するだけである。
 学生は加熱を始めた時点で、実験がほぼ終わったという気分になり、他の作業を始めた。蒸留が始まったかなと思われた頃に様子を見に行くと、釜に使っていたフラスコ内の酸クロリドは全てなくなっていた。しかし、蒸留装置に取り付けてある受器にも何も入っていない。「なんでや!」と思ってようく見てみると、釜のフラスコと蒸留装置のスリの部分に1粒の炭酸ナトリウムが挟まっていた。そこにできた隙間から蒸気が全て外に逃げてしまったのである。学生は仕方がないので、先生に事情を説明して新しく購入してもらわなければならなかったのであった。

やはり、どんな実験であっても細心の注意を払いながらしなければなりませんね。慣れてくると、つい油断してしまうので難しいですけれど。