三方


 お月見の季節です。お供え物と言えば月見団子ですが、正式には三方という木の台に白い紙を敷いてその上に載せます。三方という名前の由来は簡単で、三箇所に穴が空いているからです。一方、化学の実験室では三方コックという便利な器具があります。容器内を減圧乾燥したりアルゴンガスで置換したりする時に役立ちます。

 ある学生が触媒反応を仕込んでいた。反応容器に取付けられた三方コックを真空ポンプの方に回して容器内を減圧乾燥した後、アルゴン風船の方に回して、容器内をアルゴン置換した。その後もアルゴン雰囲気下で作業をしたかったので、萎んだ風船をアルゴンガスで膨らませて三方コックに取付けた。溶媒やら試薬やらを加えた後に加熱して反応を終えた。
 次は反応の後処理である。反応容器から三方コックを取り外して横に置き、容器内の反応混合物を分液漏斗に移そうとしていた。そこを通りかかった先輩がその様子を見て、「三方コックに付いてる風船がなんでこんなに膨らんでるん?容器から外したら萎むやろ。」と尋ねた。学生が三方コックをチェックしてみると、アルゴン風船の方は閉じていて、真空ゴム管を外して何も付いていない方向に空いていた。「ということは、アルゴン雰囲気やと思うてたのは、全部空気中でやってたということなんですか!」。一応、念のために後処理をしてみたが、目的とする反応は、やはり進行していなかったのであった。

器具や機器類を何気なく使っている人がいますが、まずは「今、自分が何をしようとしているのか、この作業にどういう意味があるのか」ということを考えながら、実験をするべきでしょうね。