ボトルシップ


 ボトルシップという工芸品をご存知でしょうか。瓶の口からは絶対に入らないような大きな船の模型が瓶の中にある置物です。完成品の船は瓶の口から入れることはできませんので、部品を1つ1つピンセットで瓶の口から入れて瓶の中で組み立てるというとてつもなく根気の要る作業で制作されています。

 ある学生が実験台の三角フラスコの中の青い液体を眺めていた。実験で使用して余った硫酸銅水溶液を放っておいたところ、中に結晶が析出し始めていたのである。研究室に入って半年、何か新たな楽しみを見つけたいと思っていた学生は、その結晶を育てることにした。六角柱の綺麗な形をした結晶は順調に成長した。その間、結晶に生じたコブをスパチュラで削ぎ落としてやるなど、野菜を育てるが如く丹精を込めて世話をしていた。実験よりも熱心に。
 その甲斐あって結晶も全長3センチを超えるほどに成長したが、周辺に生じる小さな結晶の数も増えてきたので「単結晶のまま成長させるのはこれが限界かな」と感じ始めていた。そこで、「そろそろ収穫をしようか」と思い、結晶をピンセットで取り出そうとしたところ、フラスコの口より大きくなってしまい取り出すことができなかった。まさにボトルシップ状態である。フラスコを割るか結晶を砕くかの二者択一に迫られた学生は、泣く泣く後者を選択したのであった。

こういうちょっとしたお遊びは許してもらえるかもしれませんが、そのお遊びのために器具を割るなどはとても許してもらえませんでしょうから、当然の選択をしたと言えるのでしょうね。