過保護


 人を育てるには守るべきところは守ってやりながら、丁寧に行なわなければなりません。だからといって、何もかも危ないことから遠ざけてしまうようにしますと、何もできない人が育ってしまいます。これを過保護と言います。

 ある学生が硫酸銅の結晶を育てていた。前回は大きく成長させたものの、口の狭い三角フラスコを容器に用いていたために、結晶を取り出すことができず結晶を砕かざるを得なかった。今回はそのリベンジである。前回の反省を活かして、口の大きなコニカルビーカーを容器を用いた。学生は結晶に「カホコ」という名前まで付けて大事に大事に世話をし、数週間かけて大きな結晶を育て上げることに成功した。
 これだけ苦労して育てた結晶である。机の上に飾りたくなるのも当然である。しかし、ただ結晶をサンプル瓶に入れただけでは壁面にぶつかって砕けてしまうかもしれない。そこで綿を座布団のように敷いて座らせることにした。その時、実験台を見ると吸湿性の固体を保存するのに綿の下にシリカゲルを敷き詰めているサンプル瓶があった。学生はもちろん、この方法も採用して、大事な結晶を鎮座させ、それを飽きずに眺めていた。満足して帰宅したが、翌朝、研究室に来てみると結晶の様子が一変していた。表面には白い筋がたくさん入っており、ボロボロと崩れ落ちていたのである。その時、高校の授業で「硫酸銅には結晶水というものがあって、結晶形を維持するのに必要なんです」という先生の言葉が、今更のようにはっきりと思い出されたのであった。

入試の問題で出れば簡単に解けるのでしょうが、知識は知識、実験は実験でその間がリンクされていなかった典型的な例なのでしょうね。