企画倒れ


 液体を少しずつ反応系に添加するのは簡単です。滴下漏斗という器具もありますし、シリンジポンプを用いれば、もっとゆっくりと滴下することも可能です。それに対して固体の添加は厄介です。最初から反応容器に入れておくことができればいいのですが、後から少しずつ添加するとなると、ドボッと落ちてしまったり、途中で引っ掛かったりして思うようにはいきません。

 ある学生が反応系に固体の試薬を添加する方法を考えていた。反応系の様子を見ながら少しずつ添加してみたいのであるが、アルゴン雰囲気の反応容器の口を開けて入れるのは、あまりやりたくない。滴下漏斗のような器具はないものかと考えていた時、あるアイデアが舞い降りた。使い捨ての手袋の親指部分を切って、その中に固体の試薬を入れて三口フラスコの口に輪ゴムで括り付ければ、徐々に加えることができると考えた。
 とはいえ、固体を空気中で入れていては良くないので、親指部分に試薬を入れたものをフラスコに括り付け、容器を減圧乾燥してアルゴン置換することにした。組み上がったオリジナルの実験装置を見て学生は満足感に浸っていた。そこで、真空ポンプのスイッチを入れた瞬間、ポンという音とともに真空ポンプが空気を吸い込む音がした。慌ててポンプを止めて、反応容器を見たところ、そこには親指がフラスコに引き込まれた状態で穴が空いており、そこに入れてあった固体の試料は反応容器全体の中に霧のように漂っていたのであった。

アイデアは良かったのですが、手袋が減圧に耐えられなかいことは想定外だったのですね。