崇徳院


 百人一首に「瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ」という歌があります。恋人と一時的に離ればなれになっても、きっと一緒になりましょうという意味で、これを題材にした落語もあります。

 ある学生が反応混合物をカラムクロマトグラフィ-で分離していた。分離した化合物のNMRを見ると、面白い構造の生成物ができているようであるが、残念なことに少し不純物が混ざっていた。そこで、もう一度カラム処理を行なったが、不純物の比は変わったものの、目的生成物の単離はやはりできなかった。「なんで、こんなに分かれへんねん」とぼやきながら、学生は意地になってカラム処理をさらに2回繰り返した。しかし、その甲斐むなしく、混合物の状態はかわらないままであった。
 どうしようもなくなった学生が、先生に相談してみると、意外なことに「NMRを違う溶媒で測定してみ」というものであった。だまされた気分で、言われたままにNMRを測定してみると、そこにはやはり混合物のチャートが見られたものの、その比は大きく変わっていたのであった。

カルボニル化合物にはケト-エノ-ル互変異性という平衡があります。この平衡は通常、大きくケト型に偏っているために、エノール型を見ることは少ないのですが、十分に安定なエノール型であれば、平衡混合物として観察することもできます。この学生の場合、1回目のカラム処理の段階で、すでに精製に成功していたのですが、気付かないまま、何度も繰り返していたのですね。