雨漏り


 屋根に穴が空いていたりすると、雨漏りがします。それは通常、最上階の部屋に限られています。なので、それより下の階の人にとっては、天井から水が滴り落ちてくるなどの事態が起こることは全く予測もしていませんし、備えもしている訳ではありません。

 修士論文の発表会も直前に控えたある日の午前2時過ぎ、ある学生が研究室に残ってデータ整理をしていた。その時、上の階の先輩が突然現れ、「ちょっと隣の部屋が水浸しになってるから手伝うて」と言われた。学生が上の階に上がると、そこには水浸しという表現が当てはまらない程に水が溜まっており、むしろ積もっているような状態であった。実験台の冷却水が外れたまま、床に水が吹き出していたのであるが、実験室には誰もおらず、発見が遅れたのであった。その水が隣の部屋までやってきた時に初めて気づいて下の階に応援を要請したという次第である。
 それから30分ほどの間、手がかじかみながらも水を掻き集め、ようやく床が見え始めた頃、別の心配が湧いてきた。それは下の階の研究室(学生の所属している研究室の隣)への水漏れである。実験室が水浸しになっていたら大変であるし、場合によっては水と反応するような試薬もあるかもしれない。翌朝まで待っていられなかったので、学生はその部屋の学生に電話をかけた。夜中ということもあり、なかなか電話には出なかったが、かなりの時間呼び出した結果、ようやく出てくれた。事情を話して大学に来てもらったが、当然のことながら「こんなん明日の朝でも良かったんちゃうん」とかなり不機嫌であった。とにかく部屋の鍵を開けてもらって入ったところ、そこには眠気も怒りも吹き飛ぶような光景が広がっていた。
 その学生の実験台だけでなく机の上も水浸しになっていた。修士論文を書くのに必要なデータ類から何もかも水浸しになっており、電話をかけた学生は声をかけることもできなかった。後日、修士論文の発表会の時に、被害を受けた学生が登壇した際、頭の中が真っ白になってしばらく沈黙の時間が続いたが、会場の人は事情を知っていたので、そのまま何も言わず学生が話し始めるのを待っていたのであった。

自分だけに被害が生じるような失敗ならまだしも、他の人に迷惑をかけるのは最悪な失敗です。そのようなことが起こらないように普段から気をつけておきたいものですね。