膝蹴り


 ドラフトチャンバーは実験室に必要不可欠なものです。反応の仕込みや後処理をしたり臭い試薬を使ったりする時など、色々な場面で使用します。一口にドラフトといっても、仕様が異なったものが数多くあります。水道の蛇口にしてもバルブ型のものもあれば、レバー式のものがあったりします。

 ある学生がドラフトで反応の仕込みを行なっていた。還流冷却器を取り付けたナス型フラスコに、予め計算した試薬を測り取って順番に入れていくだけである。いくつかの試薬を入れ終わり、最後の試薬を取ろうと身を捻った瞬間、背後で「ジャー!」という激しい音がした。驚いた学生が振り向くとたくさんの水しぶきが顔にかかった。事情が飲み込めていない学生はパニックになってしまい、自分がどのように対処すればいいのかが分からなくなっていた。それをそばで見ていた先生が、水道を止めて実験室は静寂を取り戻した。
 「少しずつしか冷却水を出していなかったはずやのに」と思っていたが、レバー式の水道の蛇口に膝が当たって、大量の水が出てその勢いで冷却管が外れたことをようやく理解することができた。自分の試薬に水が入ってるわ、ドラフトの中は水浸しになっているわで、悲惨な状況であったが、自分自身が原因であるので誰にも文句を言うこともできず、黙々と片付けたのであった。

実験を初めてやる時よりも、少し慣れてきた頃に失敗が多く発生します。こういう失敗を積み重ねることによって、少しずつ実験が上手くなっていくのでしょうね。