楔(くさび)とは、V字型あるいは三角形の形をしている器具のことであり、割れ目に打ち込んでさらに大きく引き離すために使われるものです。

 ある学生が反応を仕込もうとしていた。過マンガン酸カリウムの粉末を溶媒に溶かし、その溶液を注射器で吸い上げて反応容器に移すという単純な操作である。学生は100 mLの注射器を用いて溶液を吸い上げたところ、紫色をした溶液が順調に流れ込んできた。目的の量に達したので、注射針を反応容器に刺してシリンダーを押し始めた。その時、強い抵抗を感じたと思うと、そのまま押しても引いても動かなくなってしまった。溶け残りの粉末が注射器のスリの間に噛み込んでしまったようである。
 学生は焦った。「どうにかして外さなあかん」と思った学生は、木槌を持ってきて軽く叩き始めた。その時、ピシッという音とともに注射器の側面に亀裂が走り、中の溶液がポタリポタリと滴り落ち始めたのであった。

スリ合わせの部分に固体が挟まりますと、そのまま動かなくなることがあります。きっちり合わさっているところに固体が無理やり入ってきたのですから当然です。また、スリは透明なガラスにヤスリを当てて凸凹にしているのですから、表面は傷だらけであると思えばいいです。そこを木槌で叩いたのですから、固体が楔の役割を果たしてしまったのでしょうね。固体が溶ける溶媒を染み込ませるなど、別の方法を採った方が良かったかもしれませんね。