失敗知らず


 ヨードホルム反応とは、高校の教科書にも載っている定性分析の1つです。分析する試料がアセチル基を有する化合物(メチルケトン)であれば、ヨードホルムの黄色沈殿が生じますので、すぐに判断することができます。1つ気をつけなければいけないのは、ヨウ素は酸化剤でもありますので、酸化されてメチルケトンになるものも陽性を示します。

 ある日の学生実験では、未知試料を各種定性分析をすることによって構造決定をするというものであった。分析反応の1つにヨードホルム反応があった。先生は「色んな溶液を調製せなあかんから面倒臭いな」と思いつつ準備をしていた。「ヨウ素溶液も作らな」と思った瞬間、先日、他の研究室からもらったヨウ素液の瓶が研究室にあることを思い出した。「そや、あれを使うたら、溶液を作る手間が1つ省けるわ」と喜び、その瓶の溶液を使って学生達に実験をさせることにした。実験が始まった。先生が巡回しながら、学生達が手に持つ試験管を見ると、黄色沈殿がしっかりと析出しており、学生達も楽しそうに実験をしていた。
 先生がある班の横を通りかかった時、ふと違和感を覚えた。3つの未知試料が全て陽性を示しているのである。「全部の試料が陽性を示すはずはないねんけど。それになんか沈殿の量が多いような・・・」。その瞬間、先生はあることに思い当たり、急いで溶液が入っていた瓶を見に行った。そこには「ヨウ素溶液(エタノール)」と書いてあった。「しもた!エタノールはヨードホルム反応に陽性やった!」先生は急いでヨウ素溶液を調製し、学生達に実験をやり直させたのであった。

試薬の溶液は横着をせずに、自分の目で確認しながら調製した方が確実ですよね。