涙、涙の物語


 試薬の性質は千差万別ですが、その中の1つに催涙性があります。反応を仕込む時も、なかなか大変ですが、廃棄する時も同様です。

 ある学生が臭化ベンジルを用いた反応を仕込んでいた。この試薬は非常に催涙性が強く、アンプルを開けると同時に、目が痛くて開けていられなかった。学生は涙を流しながらも、ようやく仕込み終えた。使い終わったアンプルにはほんの少し残っていたが、置いていても使えない程度の量であった。しかし、捨てるにしても、研究室の廃液溜に捨てると、他の人に迷惑がかかるのは明らかである。
 そこで、学生は部屋を出て行き、トイレに流した。研究室に戻ってきて、元の生活に戻ったのも束の間、捨てた臭化ベンジルの蒸気が下水を伝ってきて、至る所で洩れ出してきた。それは学生の研究室だけでなく、化学系の建物にいる多くの人達に涙を流させてしまったのであった。その後、学生がこっぴどく怒られたのは言うまでもない。

試薬を使うだけでなく、廃棄をするところまでが実験です(遠足の注意のようですが)。特に他の人の迷惑になるようなことは、しないように心がけるべきですね。