額面通り


 新しい反応を仕込む時は自分で試薬の量を計算したり、溶媒の量を考えたり、反応条件(温度や時間など)を決定したりしなければなりません。しかし、既に報告されているような反応でしたら、文献検索をしてそこに記載されている方法を踏襲すれば済みます。

 ある学生は原料合成に追われていた。原料の消費スピードが上がったにも拘らず、反応効率が悪いことに学生は苛立ちを感じていた。「先生からもらった文献の通りにやってるのになんで収率が悪いんやろ?」と文句を言うていても仕方がないので、原料合成とそれを使った反応を仕込み続けていた。
 ある日、先生が学生の報告を聞いていると、原料合成の収率がかなり低いことに気付いた。「なんで10%程度しか取られへんのん?」と言う問いに学生は「文献に書いてある量で仕込んでいます。」と自信たっぷりに答えた。そこで先生が論文を見てみると、2段階の反応のうち、1段階目の反応は10 mmolのスケールで記載されているのに対して、2段階目は4分の1の2.5 mmolスケールで書いてあった。ところが、学生はそれには気付かずに記載量を仕込んでいたため、いくら頑張っても25%以上の収率になるのは不可能であった。しかもそれを1年近くの間、続けていたのである。それが判明したのは卒論発表前の最後の原料合成が終了した後であり、学生も先生もどうすることもできなかったのであった。

論文に書いてある値は計算間違いをしていることもありますし、今回のケースのように途中でスケールが変わっていることもあります。面倒臭がらずに、試薬量は自分で計算をしなければなりませんね。