つもり


 反応を仕込む時に試薬の量を計算しますが、同じ試薬を用いて同様に反応をする場合は何度も計算するのが面倒なので、実験ノートを見て前回と同じ量で仕込んでしまいます。

 ある学生がある反応の条件の最適化を行なっていた。しかし、反応時間を延長しようが加熱しようが収率が20%そこそこで頭打ちしてしまい、それ以上には向上しなかった。ある日、反応させる試薬の量を増やすと収率が上がることを見出した。2倍用いれば収率も2倍程度になり、3倍持ちいればそれに伴って収率が3倍になった。原料と試薬が1:1で反応する反応であるから、試薬の量を増やすと収率も比例するというのはおかしな話である。そこで、学生は1週間分の実験結果をまとめ、先生に相談をすることにした。
 「試薬を増やすと収率が比例して上がっていくというのは、試薬が足りてなかったということやろなあ」
 「でも、ちゃんと計算して仕込んでますよ。」
 「NMRで見えてるこのシグナルはTHFのシグナルちゃうの?」
 「そう言えば、試薬瓶に1 M のTHFなんちゃらって書いてありました。」
 「その試薬は溶液で売られてるやつちゃうの?」
 「えっ、そうなんですか?」
などという会話がなされて、仕込んだ試薬の量が根本的に足りていなかったことが判明した。学生は1週間分のミスで良かったと胸を撫で下ろしたのであった。

試薬といっても性質も様々ですので、不安定なものは溶液で売られていることもあります。瓶の中の液体が全て試薬だと思って使いますと、溶媒で希釈されていますので、実際に量りとった試薬は少ないのは当然です。試薬を使う前には瓶に貼ってあるラベルをきっちり読まなければなりませんね。