一日の長


 色々な職業がありますが、それぞれにプロと呼ばれる人は、目を瞠るような技術や知識、経験を有しています。それは経験年数に応じて蓄積されていくものですので、長年やっている人はそうでない人に比べて一日の長があります。

 ある学生が用いている基質をアミノ化することになった。先生は「プロピルアミンくらいを反応させたらええんちゃう」と軽く言った。しかし、学生はプロピル基のNMRを考えると解析が面倒臭そうなので、気が進まなかった。そこで文献検索したところ、無置換のアミノ基を導入する方法を見つけた。「これなら解析もしやすいからええわ」と思った学生は早速先生のところへ赴き、自分が見つけた方法でやらせて欲しいと伝えた。先生は大した反対もせず、「そう思うんやったら、自分が納得するようにしたら」とあっさり許可してくれた。
 実際に実験を始めてみると、文献に書いているようにはなかなか行かず、失敗を繰り返す毎日であった。1ヶ月ほど試行錯誤を重ねた結果、先生のところに相談に行った。先生は「騙されたと思うて、プロピルアミンで試してみたら」と言うので試したところ、反応があっさりと進行し、アミノ化された生成物が定量的に得られた。学生は「これまでの1ヶ月の苦労はなんやったんやろう」としみじみと思ったのであった。

いくら初めて試みる反応であっても、先生は長年の経験と豊富な知識を持っていますので、こうすれば上手くいきそうというルートに経験的に辿り着く可能性が高いと言えます。この事例では先生は「学生が苦労して試行錯誤する経験も必要」と思って、教育的な観点から思うようにやらせてみたのでしょうね。