てんで話にならない


 実験装置もどんどん進歩し、自動化されつつあります。傍にいて様子を見ながら、目盛を調節するなどという風景は遠い昔のことです。最近では、減圧度や水浴の温度も自動調整してくれる優れものが使われています。

 ある学生が濃縮をしようとしていた。仕込んでいる反応がそろそろ終わりそうなので、少々焦っていた。濃縮しようとしている化合物は熱に弱いので、水浴の温度を30度に設定して、エバポレータのスイッチを入れて、反応の後処理をするために離れた。しばらくして濃縮が終わったと思われる頃に戻ってみると、そこには予想とは異なる光景が広がっていた。
 水浴は沸騰しており、湯気が朦朦と立ち込めていた。「水浴の温度調整器が壊れたんちゃうか」と思って、設定温度を見ると、そこには30.0度ではなく、300度の文字が示されていた。結局、化合物は分解してしまったので、学生は最初から実験をやり直さなければならなかったのであった。

たかが小さな小数点ですが、その有無によって事情は大きく異なってきます。場合によっては危険なこともあります。デジタルの表示はしっかりと確認するべきですね。まあ、270度も違っていれば、設定の時にどこかで気づきそうなものですけれども。