阿吽


 研究にはお金がかかります。研究室によってはお金があるところもあれば、ないところもあります。後者の場合、出費を抑える努力をすることが一層求められます。

 ある研究室では、抽出用に使っている溶媒を回収することになっている。濃縮して捨てるだけでは勿体無いからである。3リットルの大きな分液漏斗を用いて溶媒を水洗して水溶性の不純物を取り除いた後、乾燥して蒸留するという手順である。研究室中から集まってくるので、その量は相当なものである。
 ある日、2人の学生が溶媒回収を行なっていた。溶媒の乾燥も終わり、マントルヒーターに設置したナス型フラスコに入れる段階になった。大きな漏斗を持ちながら溶媒の入った重たいフラスコを持つという作業は1人では到底無理なので、2人が協力して当たることにした。1人が溶媒を入れていると流量をうまく調節できず、漏斗の上で跳ね返ってもう1人の学生の服をしこたま濡らしてしまった。かけた学生は謝ったものの、かけられた方の怒りは収まらない。しばらくすると、研究室のゴミ箱にはまだらに脱色されたトレーナーが打ち捨てられていたのであった。

2人1組で作業をすると、失敗の確率が上がります。阿吽(あ・うん)の呼吸でできればいいのですが、そのようなペアはあまりいませんのでね。できる限り1人で行なうべきですが、それが無理な場合は相手に迷惑がかからないように最新の注意を払うべきでしょうね。