理想と現実


 実験に限らず何事でも、新しく何かを始めようとする時には理想とする結果を思い描きます。そして、それを実現するために色々と試行錯誤を重ねていくというプロセスを経ます。しかし、そのような努力をしても、必ずしも理想に近づけるとは限りません。

 ある学生が小学生相手に見せる実験テーマを考えていた。翌週に大学訪問で来てくれるので、子供達を喜ばせるような実験を見せてあげたいなと思ったからである。そこで、化学実験らしい水素の発生を見せることにした。試験管内で金属片と酸から水素を発生させるが、見た目では出てきた泡が水素かどうかを判断することができない。そこで、通常は試験管の口に火を近づけて、ポンという音を発して燃える様子を見させることが多い。しかし、それでは一瞬なのでインパクトに欠けるのである。そこで、学生は試験管の口に石鹸水を塗っておき、水素で充たされたシャボン玉を作り、それに火を点ければ火の玉が飛んでいくのでインパクトも大きいと考えた。
 そこで、学生は喜んでいる小学生の顔を思い浮かべながら予備実験に取り掛かった。試験管の口にシャボン玉が生じる様子を見て学生自身もワクワクしてきた。そして、遊離したシャボン玉に火を近づけて燃やそうとしたが、水素で充たされたシャボン玉は動きが速く、あっという間に天井に達して割れて消えてしまう。何回も試行錯誤を重ねたが、やはり同様の結果しか得ることができなかった。結局、大学生がやってもできない実験を小学生にできるはずもなく、別の実験を考えなければならなかったのであった。

研究室の実験でもそうですが、思った通りにいかないことは多々あります。そのような時、いかに工夫をするかとか、いかに粘り強く取り組めるかなどの姿勢が大切であり、それがうまくいかない時に代替案を用意することができるかということによって、その後の展開が異なってきます。一筋縄ではいかないものですね。