無知は罪なり


 研究室によってスタイルは異なりますが、学術雑誌に掲載されている論文を紹介する機会があります。

 ある学生の論文紹介をする順番が回ってきた。数日前から作成したレジュメには構造式が書いてあり、それを用いて説明した。また、先生や学生たちもそれを見ながら説明を聞いていた。「ここに書いてありますように金属に一酸化炭素と水素が配位して、金属上にホルミル基(アルデヒド基)が形成されます。このことは重水素を使った実験でも確認されていまして、重水素化されたホルミル基が生成します。」その時、学生だけでなく、先生までも学生の説明に付いていけなくなった。反応機構がすぐには思いつかないのである。学生同士あるいは学生と先生の間で侃侃諤諤の議論が行なわれたが、結論は得られなかった。
 その時、先生が「レジュメだけやったら分からへんから、元の論文を見せて」と学生に言った。渡された論文の図を見ると、確かに金属の上にCODという文字が書いてあった。先生は「これはホルミル基やなくてシクロオクタジエンという配位子のことや!」という言葉を残して部屋を出て行った。間違えた内容で論文紹介を続ける訳にもいかず、研究室の他のメンバーも無言で部屋を出て行ったのであった。

研究室の先生や学生を集めて行なう場合、それだけみんなの時間を使わせてもらっています。その分、しっかりとした準備をしなければなりません。調べることはもちろん、分からなければ周りの人に質問するべきでしょうね。