今は昔


 かつては、今では考えられないようなことが普通に行なわれていました。ベンゼンは規制が厳しい試薬の1つですが、かつてはベンゼンを展開溶媒に用いてカラムをかけていたこともあります。

 ある学生が先輩の卒論を見ながら実験をしていた。先輩と言っても、20年位前の面識のない人である。論文には「ベンゼンで抽出」という記述があったので、その通りにベンゼンを用いて分液漏斗を振っていた。その時、見知らぬ人が実験室に入ってきた。「あー、そう言えば、作業環境測定をすると先生が言うてたけど、今日やったわ」と思い出したものの、学生である自分が何かしなければならないという訳ではないので、その横で黙々と実験をしていた。
 数日後、その研究室に学長名で作業環境改善の命令書が届いた。予期せぬ事態に驚いた先生が報告書を見ると、そこには基準値を大幅に超えたベンゼンの濃度が記載されていた。「普段は使うてへんのに、なんで作業環境測定の時に限ってベンゼンを使うねん」と愚痴ったもののどうしようもなく、再度の作業環境測定を受け入れたのであった。

かつての感覚で実験をしていると、今では規制の対象になっていて窮屈な思いをしなければならないことが多々あります。しかし、実験をする人や周辺の環境を守ためですので、仕方がないと諦めて受け入れなければなりませんね。