無意味乾燥


 大学の実験で学生たちが戸惑う操作の1つに、硫酸マグネシウムや硫酸ナトリウムによる有機溶媒の乾燥というものがあります。実験書には「何 g 加える」と書いてないのも、戸惑いの原因になっています。

 ある学生が学生実験で抽出を行なっていた。有機層を採るマイヤ-型フラスコを見ると、前の時間に使っていた学生が十分に洗っていなかったらしく、かなりの汚れが残っていた。学生は「しゃあないな」と呟きながらフラスコを丁寧に洗い、分液ろ斗で分離した有機層をそこに入れた。先ほどの水洗いの影響で水滴がフラスコの壁に付いていたが、学生は気にはならなかった。次の実験手順は「硫酸マグネシウムで乾燥」と書いてあった。学生はフラスコを持って先生のところに尋ねに行ったところ、「これはようけ乾燥剤を入れなあかんわ」と言われた。学生は言われたまま硫酸マグネシウムを加えたが、若干多過ぎたようで、気がつくとマイヤ-の半分くらいのところまで硫マグが堆積していた。
 何はともあれ、十分過ぎるほどの量の硫マグで、有機層が乾燥されたので、次は乾燥剤をろ別して濃縮する操作である。学生は硫マグによってろ紙が目詰まりしないように、できるだけ硫マグをマイヤ-に残すようにしながら、有機層をひだ折りろ紙に注いだ。ところが有機層は下にほとんど落ちず、思い出したようにポトッと落ちる程度である。先生がそれを見て「なんか変なことをやったやろ」と学生に言ったが、学生には心当たりはなく「いいえ、いつもと同じように、ろ紙を水で濡らしてろ過しただけですよ」と答えた。それを聞いた先生は「もういっぺん乾燥からやり直せよ」と言って、立ち去ったのであった。

実験はその場ですぐにできるものではありません。予め、どのような操作を、何の目的でやるのかを調べておくべきですね。