病院臭


 学生たちはあまり気にしていないかもしれませんが、学生実験室に行ってすぐに実験が始められるのは、先生が時間前に準備をしているからに他ありません。

 ある先生が、学生実験の始まる時間になったので、実験室の扉を開けに来た。必要なものは全て出したし、「これで大丈夫」と思った瞬間、クレゾールの瓶に目が留まった。そして、クレゾールを融かし忘れていることに気づいた。もうすぐ学生がやってくるので、慌てて湯を張ったボウルにクレゾールの瓶を浸けた。しかし、気持ちがいくら焦っても、瓶の中の固体は徐々にしか融けてくれない。そこで、熱湯を加えてスピードアップを図った。
 しばらくすると、実験室全体に病院の臭いが漂ってきた。先生がボウルの様子を見に行くと、瓶が割れてボウルの湯の表面にクレゾールが膜を張っていた。先生は慌てて空瓶を用意して、すでに融けたクレゾールを移さなければならなかった。学生たちが実験室に入ってきた頃には、微かな病院臭の中に汚い字のラベルが貼ってある試薬瓶が教卓の上に置かれていたのであった。

慌てて無理をすると失敗をします。失敗をするとさらに慌てて新たな失敗を誘発します。慌てている時こそ冷静に対応することが必要ですね。