足枷


 研究はやみくもにやってもうまくいきません。それ相応の知識と経験が必要です。しかし、時にはその知識が邪魔することもあります。

 ある学生が反応条件の検討を行なっていた。触媒として用いているルイス酸はもちろん、溶媒、温度、時間、濃度など思いつくファクターを全て検討してみたが、どうしても収率が向上しない。「実験手順に問題があるんかも」と思い、全ての操作を洗い直してみたが、特に不審な点も見つからなかった。もちろん、ルイス酸の天敵である水を除くことには最新の注意を払い、脱水溶媒を用いてアルゴン雰囲気下で反応を行なっているにも拘らず、その効果は認められなかった。
 ある日、面倒臭くなった学生は缶出しの溶媒を用いて、開放系で反応を行なった。「今回はさすがに収率が下がるやろ」と思いつつ処理をしてみると、予想に反して収率の向上が見られた。「もしかして」と思い、積極的に水を加えて反応を行なうと、収率はさらに向上した。その結果、学生は無事にテーマを展開することができたのであった。

常識に捉われて、「どうせ無理やろ」と思ってやらないことがあります。しかし、実験は実際にやってみないと分からないことがよくありますので、まずは実際に確かめてみる姿勢が必要でしょうね。