失敗の後には福来たる


 混合物を分けるのは骨が折れます。合成系の研究では、実験のほとんどが分離作業と言っても良いくらいです。なので、分離できなかった時のショックは半端ではありません。

 ある学生が反応混合物の分離を行なおうとしていた。しかし、この化合物はシリカゲル上で容易に分解するので、クロマトグラフィーによる分離は無理である。目的生成物は目の前にあるのに単品を取り出すことができない「もどかしさ」を感じていた。そこで、減圧蒸留による分離を試みることにした。
 沸騰して留出してきた成分を3つのフラスコに取り、蒸留を終了した。期待を胸にフラスコの中の留分のNMRを測定したが、いずれも目的生成物ではなかった。「あ〜、失敗したか」と思って後片付けをしようとした時、蒸留釜に使っていたフラスコ内に液体が残っていることに気づいた。そこで、NMRを測定したところ、そこにはきれいに精製された目的生成物のスペクトルが現れたので合った。

この場合は副生成物や不純物が低沸点のもので、減圧留去された状態だったので幸運なケースです。でも、失敗したと思って、捨ててしまっていると、本当に失敗していたことを思うと、学生を褒めるべきでしょうね。