過剰反応


 4年生で実験を始めた頃は、何もかも難しく感じます。その中の1つに量の感覚があります。頭では理解していても、なかなか身に付いてくれません。

 ある学生が研究室に入って、順調に実験を進めていた。ある基質とアミン類との反応のテーマをもらったのだが、非常に効率良く反応が進行するために、高収率を連発していた。一通り、脂肪族アミンを用いた検討が終わったので、次は芳香族アミンとの反応を始めた。その途端、未反応のアミンに隠れて、目的生成物のシグナルがほんの少ししかNMRで観察されなくなった。この大きな変化に戸惑った学生は先生に相談をした。
 「原料はいくら使うたん?」
 「基質が100 mgで、アミンが80 μLです。」
 「反応混合物の重さは?」
 「800 mgです。」
 「ん? 使うた原料の5倍くらいの重さがあるのはおかしいやろ。アミンは何で測ったん?」
 「1 mLの注射器で0.8 mL測りました。」
 「それが原因や!」
 学生はこれまでやってきた反応を全てやり直して、収率を出し直したのであった。

明らかに、「80 μL = 0.8 mL」と思っていたために起こった失敗です。等モルで行なう反応を10当量使用していたので、効率良く反応が進行したのも当然です。ただ、脂肪族アミンは沸点が低いために、溶媒と一緒に減圧留去されていたので、このことに気づかなかったのですが、高沸点の芳香族アミンは留去されないために発覚したのですね。