1階で雨漏り


 同じ酸でも、不揮発性の硫酸とは異なり、塩酸や硝酸は揮発性がありますので、反応生成物中に残りにくいという特長があります。

 ある研究室では、無機試薬を塩酸に溶解させた後に水を蒸発させて粒子を合成していた。自然濃縮をすると非常に時間がかかるだけでなく、塩化水素の蒸気が周辺の金属を錆びさせるため、ドラフトチャンバー内に放置するという方法が採られていた。ある学生は色々な比率で試薬を混合して、得られた粒子の性質を比較したいのに、濃縮の時間がかかる段階がネックになって、なかなか思うようには進まなかった。そこで、塩酸の溶液の入ったビーカーをバーナーで炙り、濃縮するという方法を用いたところ、大幅な時間短縮ができるとともに、自然濃縮した時と同様の結果が得られた。この成功に気を良くした学生は、試薬の比率を変えて次々と仕込んでいった。それを見た他の学生たちもこぞって真似をするようになった。
 それから数ヶ月経ったある日、廊下の天井に茶色いシミが現れ、それが徐々に広がっていった。そして、ついにポタリポタリと雨漏りのように滴が落ち始めた。しかし1階なので、雨漏りであるはずはない。施設担当の事務の人に調べてもらったところ、ドラフトの排気ダクトに溜まった塩酸の影響で腐食して穴が開いていたとのことであった。それ以来、その研究室ではバーナーによる濃縮は禁止されたのであった。

ある程度予想された結果ですね。それよりも天井から落ちてくる滴は、酸性雨とは比較にならない程の酸性ですから、何も関係のない人にまでを危険に晒すようなことは避けるべきですね。