待てど暮らせど3


 試薬には色々な性質のものがあります。それに応じて実験装置も工夫をする必要があります。例えば、酸性の試薬を含む溶液を濃縮する際、そのまま吸引しますとポンプが傷んでしまいますので、途中にアルカリトラップを挟む必要があります。

 ある学生が反応の後処理を行なっていた。塩酸を加えて反応を停止させた後、抽出するのであるが、水にも有機溶媒にも混じりやすいアセトニトリルを溶媒に用いていたので、そのままでは無理である。そこで、まずは濃縮してある程度アセトニトリルを減圧留去した後、分液漏斗に移して有機溶媒で抽出することにした。アルカリトラップも必要であるが、後輩の机の上に置いてあったので、それを借りて使うことにした。
 濃縮を始めたものの、フラスコの中の液量はなかなか減らない。その様子を見た学生は「しばらく時間がかかりそうやから」と思い、休憩室でコーヒーを飲みながら他の学生と談笑していた。いつの間にか1時間が経過し、「さすがに濃縮が終わってるやろ」と思って実験台に戻ると、液量は減っていなかった。不思議に思った学生がフラスコに手を伸ばすと、減圧されているはずなのに簡単に取り外すことができたのであった。

酸性の試薬を留去するのにアルカリトラップを用いたのは正しい選択です。ただ、この学生はトラップを作るのが面倒であったために、古くなったアルカリトラップを使っていました。おそらく、このトラップ内の細いガラス管が詰まっていたために、真空ポンプを稼働させてもエバポレーター内は減圧されていなかったのでしょうね。