夢幻の如くなり


 生成物が固体の場合、再結晶は非常に有力な精製法です。多少のロスはありますが、純度が高いものが得られるのが利点です。ロスがあるといっても母液から回収することができますし。

 ある学生が再結晶をしていた。反応混合物が固体であったので、加熱しながらエタノールを加えていくと、少し多めの量が必要であったが全て溶解した。そのまま放置して、室温までゆっくりと冷却すると、フラスコの中には結晶の析出が見られた。しかし、思っていたほどの量の結晶が見られなかった。学生は「ちょっと溶媒を使い過ぎたか。もうちょっと置いておくか。」と思って一晩放置することにした。
 翌朝、期待してフラスコを覗くと、結晶が増えるどころか消失していた。学生は慌てて、溶液を濃縮してNMRを測定した。その結果、反応混合物のNMRとは似ても似つかぬスペクトルが得られ、しっかりとエトキシ基のシグナルが現れていたのであった。

反応にしろ、再結晶にしろ、溶媒に求められる最も大事な条件は、「基質と反応しない」ことです。この場合は溶媒のエタノールが生成物と反応して構造変化したために取ることができませんでした。一晩放置する前に一次結晶を取っておくべきでしたね。