積水


 終夜実験は避けるべきですが、せざるを得ない時もあります。その時に特に注意すべきなのは冷却水です。止まらないように少し多めに流していたりすると、夜になって水圧が変わり、挿している管が外れることもあります。

 ある冬の朝、先生が家を出ようとした時、大学からの電話を受けた。このような時の電話は、良い知らせであったためしがない。研究室のドアの下からから水が染み出しているのを、見回りした守衛さんが発見したとのこと。「あれほど水には気を付けるようにと言うてたのに」と思いつつ大学に到着すると、向かいの研究室の教授は長靴を履いて、自分の研究室に流れ込んでいた水を掻き出していた。「すみません、すぐに処置しますんで」と言いつつ、実験室のドアを開けると、雪のように水が積もっている状態であった。靴に水が入ることなど気にせず慌てて入り水道の蛇口を閉めた。床の排水口の蓋を開けて水をそこから排出させた。寒い日であったが、先生の背中からは湯気が立ち上っていた。
 一通り片付けの目処が立った頃に、学生が来始めた。来た学生は実験室と先生の様子を見ると、指示をされるまでもなく水を掻き集める作業を始めた。ようやく全ての片付けを終えて、冷却水を使っていた学生を伴って、向かいの研究室に謝りに行った頃には昼近くの時間になっていたのであった。

このような事故が起こった時に、先生が率先して誰よりも働いていたので、学生たちも黙って手伝ったのだと思います。そんな時に体を動かしてくれない先生なら、学生の方から見切りをつけても良いかもしれませんね。