糠と釘


 先生は学生の為を思って、助言や注意、時には叱咤激励をします。しかし、学生達はその意を汲んでいるかというと(ちゃんと受け止めている学生もいるでしょうが)右から左に受け流している場合もよくあります。

 ある学生はNMRのキャップの色を緑色しか用いていなかった。実験台にカラフルなキャップがあるよりは、統一感があって良いと思ったからである。それを見た先生は「試料を取り違えるかもしれんから、気い付けや」と釘を差したが、学生は「はーい」と調子の良い返事を返していた。ある日、学生は反応の進行状況をNMRで追跡することになった。試料の入ったNMRチューブを油浴に浸けて、1日加熱した。
 翌日、学生はチューブを油浴から引き上げ、周りに付いた油を丁寧に拭き取った後、NMRを測定した。すると、そこに現れたのは原料とは異なったスペクトルであり、「反応が進行した!」と喜んだ。しかし、ようく見てみると見覚えのあるスペクトルである。そして別の試料を取り違えて、加熱していたことに気付いた。「あ〜、糠喜びやったか〜」と嘆いたものの、仕方がないので、もう1日余分に加熱をしなければならなかった。そのことを先生に報告すると、案の定お説教を食らったが、適当に聞き流していた。先生も「こいつに説教しても糠に釘やな」と思ったのであった。

この場合は試料の取り違えに気付いたから1日を無駄にしただけで済みましたが、もし、気付いていなかったら、もっと長い時間を無駄にしていたかもしれません。試料は取り違えないように、しっかり区別できるようにしておくべきですね。