月下美人


 月下美人という花があります。サボテンの一種で一夜限りの花を咲かせ、朝には萎んでしまいます。

 ある学生がアルゴン雰囲気下の反応を仕込んでいた。ボンベを新品と交換する方法も教えてもらったので、次は反応を一人で仕込む練習である。学生は実験台の横に備え付けられているバブラーを見ながらガスの流量を調節していたが、あまり反応してくれず、ボンベのバルブを少し開くと、ようやくプクリ、プクリと流動パラフィンの中に気泡が現れる様子を確認した。「アルゴン雰囲気の反応やから、この程度でええわ」と思い、その状態を保っていることを確認して帰宅した。
 翌朝、研究室に来ると、同じ実験台を一緒に使っている先輩がボンベをいじっていた。「何かあったんですか?」と尋ねると、先輩は「昨日ボンベを入れ替えたばかりやのに、レギュレータの圧が全然上がってくれへんねん」とのこと。よくよく調べると、ボンベは空になっていた。そこから急遽、先輩から学生への事情聴取が始まった。学生が「バブラーを見ながら、ガスの流量を調整しましたよ」と説明したところ、先輩は「それは逃げのバブラーやで!」と言われたのであった。

バブラーは見えない気体の流量を見るのに有効です。密閉系になりますと、反応容器の中が加圧になって危険ですので、研究室にっては、少し抵抗を大きくしたバブラーを枝分かれさせて設置していることもあります。学生はそのバブラーを見ながら流量を調整したので、そこに泡が出る時には、反応容器の方には、ボンベのバルブが全開に近い状態で激しく流れていたものと思われます。その勢いで一晩流し続けると、ボンベも空になってしまいますよね。