融通


 フラスコの中で反応を行なっていますと、出発原料と生成物は分かるのですが、その途中経過が分かりません。実際に反応がどのように進行しているのかを知るためには、分析機器を使って反応を追跡したりします。

 ある学生が反応を終えて反応混合物のNMRを測定したところ、反応が効率良く進行しており、生成物のシグナルが見られた。他には未反応の原料と中間体と思われるシグナルがわずかに観察された。先生に相談したところ、「このシグナルが中間体のもんやったら、NMRチューブ内で反応すれば、変化する様子が観察できるんちゃうかな」とのお言葉。学生は早速にNMRで反応追跡をすることにした。
 原料の重クロロホルム溶液に、反応させる試薬を加えてNMRを測定したところ、予想に反してブロードな山ばかりが見えたのみで、解析をすることができなかった。先生に「分解能がむちゃくちゃ悪いんです」と言いながら、チャートを見せると「濃度がかなり高いんちゃうかな。不均一になってへんか?原料をどれくらい使うた?」と訊かれた。学生は「不均一でした。量はいつもの反応と同じように170 mg入れました。」と答えたので、先生は「反応容器が小さくなったんやから、原料の量もそれに合わせて変えるとかして融通を効かそうや」と言った。結局、学生は最初からやり直さなければならなかったのであった。

NMRチューブに入れる溶媒の量は、普段の測定に使っているのと同じでしょうから、溶け残りが出るほどに濃い状態だったのでしょうね。フラスコの中の反応の様子を観察するのであれば、濃度を一緒にして、溶媒の量から必要な原料の量を算出するべきでしょうね。