呼び出し


 「呼び出し」という言葉はなんとも不安を掻き立てます。特に道中では「叱られるかもしれない」、「何か仕事を申し付けられるかもしれない」「何か良からぬことが起こったかもしれない」などと不安を抱えて行くことになります。

 ある先生が教授会に出席していた。そこに事務の人がやってきて、「外に出て下さい」と言われた。会議の途中で呼び出されて退席するからには余程のことが起こったに違いないと思われた。会議室の外に出ると研究室の学生が立っていた。先生は小走りで研究室に向かいながら、学生に事情を訊いた。

 「試薬整理をしてたら薬品の瓶が破裂したんです」
 「何の薬品やねん?」
 「僕が持ってた訳やないから分かりません」
 「持ってた学生は薬品を被ったんか?」
 「多分、かかってないと思います」
 「そいつは大丈夫なんやな?」
 「多分。でも涙流してます」
 「薬品が目に入ったということか?」
 「入ってないと思います」

 イライラ感とモヤモヤ感を抱えた先生は、研究室に戻ってようやく状況を理解することができた。学生が試薬瓶の蓋を開けようとしたら、中身が吹き上げたが幸いなことに被らなかった。しかし、催涙性が強い試薬であったため、誰も部屋には入ることができない状態であった。先生は我慢しながら実験室に入り、試薬瓶をドラフトチャンバーに持って行き、窓を全開にして換気をしながら、「学生にはもう少し人に伝えるトレーニングをしないとあかんな」と思ったのであった。

日本人だから日本語が使いこなせるというのは間違いです。普段から人に伝えることを念頭に置きながら説明しないと、いざという時に何も伝わりませんよね。(次回に続く)